LOG IN

村上春樹、妄想2chリミックス

by ライスには塩を

私、村上春樹がスキ!なんですよ。

中学生から20年以上、ずっと追いかけている作家です。どうして好きかといえば…

若いとき刷り込まれたから

なんですよね。

まだ柔軟だった感性にハルキ作品がビビッと来て、ガガガッと全著作を読み、スポンジのように吸収して…そこを礎に人間性を構築し、今があるワケです。新作が出れば漏らさず読んで、ハルキズムを強化し続けております

そりゃもう変えられませんよ。一生、大好きでしょう。

今日は、大好きなハルキ先生になりきってみたいと思います。村上作品のフレーズをひろい、Remixすることをお許し下さい、ファンの皆様。そこ、石を投げるな石を!!

…村上春樹は、(あの歳にしては)WEBに詳しいほうです。しかしインターネットの深い場所=深夜枠には、さすがに踏み込んでいないのではないでしょうか。では、どうぞ。

***

僕はコンピューターの前に座り、スイッチを入れる。

パスワードを使ってロックを順番に解除し、バックグラウンドシステムが起ち上がるのをじっと待つ。タスクバーのChromeアイコンをクリックし、Googleの検索TOPにアクセスする。それから検索バーに「2ちゃんねる」と打ち込み、画面に並んだサイト一覧を眺める。

前回2ちゃんねるをのぞいたのは一昨年の春で、僕は『ピュアオーディオ板』で数多くの名無したちと歓談し、しばしば議論した。そして深い虚無を抱えたまま、その場を離れることになった。

どうしてか?
よくわからない。

ある種の趣味は、一定のところまでは深く分かち合うことができる。一方水際を超えれば激しい断絶を生む。きっと、そういうことなんだろう。

まず僕がスレ立てすることにした。

僕は静かに唇を撫で、それからキーボードに両手を載せる。

《小説家で翻訳家だけど何か質問ある?》

小説と翻訳、交互にやってる。ちょっと暇だから立ててみた

僕は書き込みの完了を示す「ENTER」キーを叩く。返事はやがて戻ってくる。

何書いてんの?年収どんくらい?

僕はキーボードを叩く。

>>2
エンタメと純文学の間くらい。「マジックリアリズム」とか評されるけど、自分ではそう思わない。年収は小説だけで食えるくらいってことにしといて

カーソルは一点にじっととどまって、点滅しながら言葉を探している。

十五秒か二十秒、僕はそのカーソルを睨んでいる。そしてそれがスクリーンの上に新しい言葉を形作るのを待ち受けている。

なんで小説家になろうと思ったの?

>>4
29歳のとき、たまたま野球場にいて、すっごい天気良かったんだけど突然「小説家になろう」って思った。

意味不明でごめんな

www厨二病かよ

質問は次から次へと浮き上がる。まるで泡のように。

なんで翻訳と小説どっちもやるの?訳わかんなくならないの?

良い質問だ。良い質問に1票、賛成多数。
僕は軽い冗談を言った。僕自身のために。もちろん、誰も笑わない。

>>15
むしろ両方やることでストレス発散になる、互いの勉強になるしな、文体とか。

作業の時間帯を分けてる。午前中は小説、午後は翻訳って感じだから混乱したりはない

そんなもんか。すげえな

僕はグラスの水をひとくち飲み、マウスを操作してこれまでの発言を何度か読み返した。指をマウスホイールの上に置いたまま、画面に並んでいく字を追う。

政治的な主張とか、本の中ですることある?

>25
若いときは、あからさまにはしなかったかな。今はちょっと歳食ったから、新聞なんかで多少言うようになったけど

物語の世界で置き換えて伝える努力は常にやってる。

小説の才能あるやつってどんなやつ?どうやったら書けるようになった?

僕はキーボードの上に両手を並べて置いたまま目を閉じる。言葉が降りてくる瞬間を、できるかぎり静粛な気持ちで待ち続ける。

>32
何もしなくても、こんこんと小説が湧いてくるヤツだな。村上龍とか、勝手に書けるタイプらしいし天才だと思う。
自分は違うから、肉体的に鍛えたりして努力が必要⇒続く

小説って1つや2つ書くのは簡単なんだが、書き続けるのが難しい。特に長編小説な。だから過酷なスポーツやって自分を追い込んだりしてる、マラソンとかトライアスロン。すっげー健康的な生活送ってる

あと、人間関係わずらわしいから海外に住んでる

僕は手を休め、息を吸い込んでゆっくりと吐き出す。そして僕がそこに並べた文字をもう一度確認する。それに続く言葉を探す。

そんなとこかな、上手く言えなくてすまん

言葉は遠く、重く、すでに途切れはじめている。

コミュ障?小説家なんてそんなもんか

小説家って毎晩飲んで不健康なイメージあったけど、そうでもないんだな

画面に字が並び続ける。

小説家も大変そうだな。体こわさないように頑張れよ


僕は感覚を研ぎすましコンピューターの画面を睨む。

その奥にある、名前のない者たちの感情の震えを少しでも読み取ろうとする。でもそれは不可能だ。

気が付くと、僕はテーブルの上に並べて置かれた自分の手をじっと見つめている。僕の両手には、長いあいだ凝視された痕跡が残っている。

単調な機械音が部屋の沈黙の中に呑み込まれる。

虚無の手によってもぎり取られてしまった鮮やかな夢のように。

村上春樹「ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編」
26 損なうもの、熟れた果実 
原典

ライスには塩を
OTHER SNAPS