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デート

by ライスには塩を

「デートなるものをしていますね」

 みずうみに映る男女をながめながら、コズッタはつぶやいた。

「ふむ。具体的に何をしている?教えてくれ」

 ペンドは聞いた。コズッタは、ぎゅっと目を細めて観察した。

「噴水のまわりを…歩いてる。手に何かを持ってます、甘そうなたべもの。ニコニコして楽しそう。あ、食べさせあってますね」

「ふむ」

 積み上げられてゆく薪、スコンというすがすがしい切断音のあいまに、ベンドはためいきをついた。

 老木のようにがっしりしたペンドの腕は、絶え間なくふりあげられた。いつも彼は、働きながら話した。さくさくと薪が割られ、土くれの山のようになっていく。今年で75歳をむかえるはずだが、しかし彼はすこしも衰えていない。

 コズッタはつと立ち上がり、緑色にひかる周囲をながめた。

 ここは森の中ほど。うっそうとした木々の合間に生成された、或るみずうみのための場所である。重なり合うはずの葉は不自然に取り除かれ、みずうみに太陽の光を届けるための天空が、ぽっかりとうがたれていた。

 みずうみは鏡のごとく銀色だ。のぞき込むと、コズッタたちが“ゴブリン”と呼ぶ、人類-ホモサピエンス-の様子が見えた。すべてを観察できるわけでは、無論ない。そのときどきで地上の、どの場所の、誰をのぞき込ませるかは、みずうみが決める。

 みずうみには意思がある。

「ベンド」

 みずうみのほとりから立ち上がり、コズッタは聞いた。

「私もあのように、誰かを愛し、睦み、心みだされるようになりますか?」

 斧を持つ手をとめ、額から流れ落ちる汗を、ベンドはぐっと手の甲でぬぐった。

 それからコズッタをじっと見つめた。彼の瞳はグレーで、高齢者と思えないほど白眼がすっきりしていた。所在ない気持ちになり、コズッタは長くなった金髪を何となく束ねあげる。幼いおくれ毛が、さらりとほほに落ちる。

「それは」

ベンドは再び斧を構えなおし、薪の山に目をやりながらつぶやく。

 「みずうみが決めるだろう」

 みずうみには意思がある。

 それが善きものか悪しきものかは、世界の誰にもわからない。

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